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人身傷害保険と対人賠償責任保険の関係は?どちらを先に回収するの?
人身傷害保険と対人賠償責任保険の関係はどうなるのでしょうか?
どちらを先に回収すればいいのでしょうか?
「人身傷害保険」とは、被保険者が自動車事故により、契約の自動車に乗車中の方が死傷した場合に、保険金額の範囲内で、保険約款に定める基準・計算方法に基づいて計算された損害額を、過失相殺による減額をせずに、被保険者自身が契約している保険会社から保険金を受け取ることができる保険です。
事故の相手方に対する損害賠償金を補償する対人賠償責任保険や対物賠償責任保険とは異なり、人身事故にあった保険契約者自身の損害を補償する保険です。
人身傷害保険は、加害者から人身事故の損害が填補されない場合被害者にも過失があるといったケースで有効活用できます。
対人賠償責任保険を先に回収したら?
被害者が相手方から賠償金を受け取った場合で、過失相殺により損害額を全額回収できなかった場合、被害者は人身傷害保険に過失割合分について補填を求めようと思うのが通常です。
計算例
例えば、
損害賠償訴訟上の総損害額が4,000万円
人身傷害保険の算定額が2,000万円
被害者の過失が20%(相手方に対する損害賠償請求の認容額は4,000×80%=3,200万円)とすると、
相手方の加入する対人賠償保険から3,200万円を回収し、人身傷害保険について過失分である800万円を回収しようということです。
しかし、ここで問題となるのは、人身傷害保険に保険金請求をした場合、人身傷害保険の保険金総額から対人賠償保険等から支払われた金額が控除されてしまうということです。つまり、2,000万円の保険金額から、既払い額である3,200万円が差し引かれマイナスになり、支払われる金額は0円になるということです。
これでは被害者の過失分が大きくない場合などは、人身傷害保険から支払われないケースは多くなります。
例えば、今回のケースで被害者の過失が80%である場合には、2,000万円-対人賠償保険から800万円(4,000×0.2)=1,200万円が支払われます。
過失分払いとは
但し、人身傷害保険の中には、過失分払いという支払方法を定めている保険会社もあります。
この過失分払いとは、人身傷害保険の算定基準のうち自分の過失分だけを請求する、つまり、今回の事例では2,000万円の保険金額に自分の過失20%分である400万円のみ請求するということです。
この場合には、対人賠償保険からの既払い額を差し引かれることは無いため、前記のように、マイナスになってしまうような場合には、過失分払いにするべきです。
過失分払いの方法があると、人身傷害保険に加入していた意味がより大きくなると思われますが、それでも総損害額4,000万円のうち3,600万円しか回収できていません(対人賠償保険から3,200万円と人身傷害保険から400万円)。
これでは、過失分払いがある場合でも総損害額が全額回収出来ず、人身傷害保険から先に回収した場合、総損害額全額回収できる可能性が高いのに、相手方から先に回収した場合、総損害額全額回収できないという不均衡な状況が生じています。
なお、人身傷害保険から先行して回収した場合は、対人賠償責任保険の代位に関する約款規定の解釈の問題になります(「保険金請求権者の権利を害さない範囲で代位できる」との文言。後述の最高裁平成24年判決参照)。
今回の場合も、人身傷害保険の約款で「人身傷害保険の算定基準によって支払われる」という約款があるため、会社の算定基準により支払うという事がなされているのです。
約款の解釈
この点については、近時、どちらを先に回収するかで回収額が異なるのはおかしいとして、人身傷害保険会社に対する保険金請求の訴えに対し約款の解釈について正面から判断した裁判例があります。
大阪高裁平成24年6月7日判決では、対人賠償保険の約款は解釈の余地があったが、人身傷害保険の約款は解釈の余地が少ないとして、「約款の改定で行うのが筋であって、約款の不十分さを理由に、保険契約の内容である約款の内容を文理とかけ離れて解釈することを正当化するものとまではいえない」と判断し、約款上、被害者が相手方から回収できなかった額を直ちに請求できるわけではなく、結果、どちらを先に回収するかで、回収額が異なるのはやむを得ないと判断しています。
しかし、どちらを先に回収するかで、被害者にとって損害額が回収できる額が異なるというのは、問題があるといえ、約款が改定されることが望まれます。
大阪高裁平成24年6月7日判決
判示事項
自動車保険契約の人身傷害補償特約の被保険者である被害者に過失がある場合において加害者から既に損害賠償金の支払を受けた保険金請求権者が保険会社に支払を求めることができる人身傷害補償保険金の額
裁判要旨
次の(1)及び(2)のような条項のある自動車保険契約の人身傷害補償特約の被保険者である被害者に過失がある場合において、加害者から既に損害賠償金の支払を受けた保険金請求権者が保険会社に支払を求めることができる人身傷害補償保険金の額を算出するに当たっては、上記条項の文言を重視して、人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算出された金額の合計額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきであり、被保険者である被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきではない。
(1) 保険会社が保険金請求権者に支払う人身傷害補償保険金の額は、人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算定された金額の合計額から保険金請求権者が損害賠償義務者より既に取得した損害賠償金を控除した額とする。
(2) 保険会社は保険金請求権者に支払った人身傷害補償保険金の額の限度内で、かつ、保険金請求権者の権利を害さない範囲内で、保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
人身傷害保険を先に回収したら?
この点、以下の最高裁平成24年2月20日判決が参考になります。
被害者に過失がある場合に、人身傷害保険会社が被害者の有する損害賠償請求を取得する範囲については、人身傷害保険の約款の代位条項に「保険金請求権者の権利を害さない範囲で代位できる」との文言があるため、その解釈が問題となりました。
従前は、人身傷害保険の支払金額全額を代位できるとする絶対説、支払金額の内加害者の過失割合に対応する金額を代位できるとする比例配分説、被害者の過失割合に対応する損害額を上回った部分のみ代位取得できるとする訴訟基準差額説など見解の対立がありました。
この点に関して、最高裁判決によって、保険金支払いが先行した事案において、訴訟基準差額説によることを明らかにしました。
この最高裁判決によると、
例えば、
損害賠償訴訟上の総損害額が4,000万円
人身傷害保険の算定額が2,000万円
被害者の過失が20%(相手方に対する損害賠償請求の認容額は4,000×80%=3,200万円)では、
保険金は、過失相殺される800万円から優先的に充当され、その後、残額1,200万円が加害者に対する損害賠償請求権に代位取得されます。
結果、被害者の損害賠償請求権は、総額3,200万円から保険金充当分1,200万円を差し引いた2,000万円となり、総受取額は4,000万円となります。
最高裁平成24年2月20日判決
判示事項
1 自動車保険契約の人身傷害条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権の代位取得の有無
2 自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において上記条項に基づき保険金を支払った保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲
裁判要旨
1 被害者が被る損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって、損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではない。
2 保険会社は保険金請求権者の権利を害さない範囲内に限り保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合において、上記条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が民法上認められるべき過失相殺前の損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
過失がある場合は請求の順序がポイント
過失がある事案では、相手方保険会社との示談と自身の加入する人身傷害保険の請求の順序が重要になります。
それは、相手方保険会社と示談後に人身傷害保険を請求すると、人身傷害保険基準の過失割合分しか請求できず、結果として総損害全額を獲得することがきでませんが、相手方と示談前に人身傷害保険を請求すると人身傷害保険会社基準の満額が請求できるため、人身傷害保険を先行した場合の方が保険金額が多くなることがあります。
但し、これらのことを保険の専門家であるはずの保険会社の担当者が知らないことがあるため、約款の内容、保険金の支払われ方、計算方法、裁判事例等を説明して、交渉していく必要があります。
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この記事を書いた人:弁護士法人アルテ代表 弁護士 中西優一郎
東京大学法学部卒業。東京の外資系法律事務所に勤務し、渉外弁護士として、労働、コーポレート/M&A、ファイナンス等の企業法務に従事。
2012年に兵庫県尼崎市にて開業。2014年に法人化し、弁護士法人アルテの代表に就任。
交通事故の解決実績多数。脳・脊髄損傷等による重度後遺障害案件を多く取り扱っている。交通事故の被害者救済のため、医療機関等との連携を強化。事故直後より、後遺障害等級の認定、適正な賠償金の獲得まで、ワンストップでサポートしている。
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