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ひき逃げの交通事故で賠償金はどうなる?弁護士が解説
ひき逃げの被害に遭った場合、被害者には誰が賠償してくれるのでしょうか。
例えば、以下の事例を考えてみましょう。
私は、道路を歩いていた際、後ろより猛スピードで走ってきた自動車にはね飛ばされました。そして、骨折等の大きな怪我を負いましたが、車はそのまま逃げてしまい、未だに捕まりません。
この場合、加害者が分からないので、賠償金はあきらめるより仕方がないのでしょうか。
交通事故の加害者が逃走してしまい、加害者が誰か分からない場合には、加害者に損害賠償請求をすることも、自動車損害賠償責任保険から保険金の給付を受けることも出来ません。
ひき逃げをされた場合、加害者が分からないので、自賠責保険から支払いを受けることができないのは、無保険車の場合と同じです。
しかし、これでは被害者は金銭的にも精神的にも大きな負担を負うことになります。
そこで、自動車損害賠償保障法は、このような場合に備えて、被害者が救済を受けることが出来るよう規定しています。
具体的には、加害者が分からず損害賠償を受けられない人のために被害者の損害を填補するという目的で国が被害者救済のための事業を運営しています。
これを政府保障事業といいます。
ひき逃げ事故では政府保障事業を検討
自賠責保険(共済)に加入していない自動車により亊故に遭った場合や、ひき逃げ事故の場合など、自賠責保険(共済)による損害賠償額の支払を受けられない被害者に対して、政府がその損害を填補する自賠法上の制度として、政府保障事業(自賠法71条以下)があります。
ひき逃げ事故の場合は、無保険車による事故の場合と同じように、国が損害賠償金を支払うことになっています(白賠法72条1項)。
支払いの基準や請求の手続、事故の日から3年以内に請求の手続をとらないと時効になってしまうことは、無保険車の場合と同じです。
なお、泥棒運転(盗難車)の車にはねられたケースでは、車の保有者に責任がある場合には保有者から賠償金を支払ってもらえますが、保有者に責任がない場合には、被害者は自賠責保険ももらえないことになってしまいます。
このような場合は、無保険車やひき逃げの場合の被害者と同じように、国が賠償金を払ってくれます。
支払いの基準、請求の手続、時効期間も、概ね同じです。
但し、政府保障事業は、被害者に対する最終的な救済措置であるという考え方の下で行われています。
そのため、被害者が他の社会保険給付(労災保険給付など)を受けられる場合には、まずその給付を受けることとされており、他の社会保険給付を受けた場合は、その限度で政府からの保障(損害のてん補)は受けられません。
また、被害者に過失があるときには過失相殺がなされ、填補額は減額されます。
政府保障事業に対する請求権は、3年経過することで時効消滅します。
そのため、原則として事故から3年以内に請求することが必要です。
なお、交通事故を起こした者は、直ちに被害者を救護し、警察に届出をしなければならないことになっており、ひき逃げをすると10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます(道路交通法72条1項・117条)。
※自賠法72条
(業務)
第七十二条 政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
2 政府は、第十六条第四項又は第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行う。
3 前二項の請求の手続は、国土交通省令で定める。
※道路交通法72条
(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
2 前項後段の規定により報告を受けたもよりの警察署の警察官は、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止するため必要があると認めるときは、当該報告をした運転者に対し、警察官が現場に到着するまで現場を去つてはならない旨を命ずることができる。
3 前二項の場合において、現場にある警察官は、当該車両等の運転者等に対し、負傷者を救護し、又は道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要な指示をすることができる。
4 緊急自動車若しくは傷病者を運搬中の車両又は乗合自動車、トロリーバス若しくは路面電車で当該業務に従事中のものの運転者は、当該業務のため引き続き当該車両等を運転する必要があるときは、第一項の規定にかかわらず、その他の乗務員に第一項前段に規定する措置を講じさせ、又は同項後段に規定する報告をさせて、当該車両等の運転を継続することができる。
(罰則 第一項前段については第百十七条第一項、同条第二項、第百十七条の五第一号 第一項後段については第百十九条第一項第十号 第二項については第百二十条第一項第十一号の二)
※道路交通法117条
第百十七条 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
この記事を書いた人:弁護士法人アルテ代表 弁護士 中西優一郎
東京大学法学部卒業。東京の外資系法律事務所に勤務し、渉外弁護士として、労働、コーポレート/M&A、ファイナンス等の企業法務に従事。
2012年に兵庫県尼崎市にて開業。2014年に法人化し、弁護士法人アルテの代表に就任。
交通事故の解決実績多数。脳・脊髄損傷等による重度後遺障害案件を多く取り扱っている。交通事故の被害者救済のため、医療機関等との連携を強化。事故直後より、後遺障害等級の認定、適正な賠償金の獲得まで、ワンストップでサポートしている。