交通事故の加害者が保険に入っていない場合は?政府保障事業とは?

加害者が保険に入っていない場合は、どうすればいいのでしょうか。

例えば、交通事故で怪我をして、加害者が任意保険に入っておらず、自賠責保険にも入っていない場合です。

加害者に支払能力が全くない場合、金銭的に一切補償されることは無いのでしょうか。

上記の場合、国が損害賠償金を支払ってくれることがあります。

自賠責保険(共済)に加入していない自動車により亊故に遭った場合や、ひき逃げ事故の場合など、自賠責保険(共済)による損害賠償額の支払を受けられない被害者に対して、政府がその損害を填補する自賠法上の制度として、政府保障事業(自賠法71条以下)があります。

自賠責保険は、自動車損害賠償保障法によって保険に入ることが義務付けられており(自賠法5条)、これに違反して無保険車を運転すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(同法86条の3)。

しかし、保険の一種には違いありませんから、加害者が保険に入っていなければ保険金が支払われないのは当然のことです。

無保険車にはねられた場合に自賠責保険の支払いが受けられないとすると、同じ自動車事故の被害者でありながら、一般の被害者に比べて損害が大きくなるので、自賠責保険の支払いの代わりに、国が損害賠償金を支払うことになっています(同法72条1項)。

支払いの基準(減額の基準も含みます。)は、概ね自賠責保険の場合と同じです。

保険会社に請求用紙があり、どの保険会社でも取り扱っています。

国は、被害者に対して支払った損害賠償金額を、加害者に請求し取り立てます。

また、被害者側が加入している任意保険から損害賠償金の支払いを受けられる場合がありますので(人身傷害保険等)、併せてご検討下さい。

なお、3年以内に請求の手続をとらないと時効になってしまうので注意してください(同法75条)。

政府保障事業とは

自動車損害賠償保障制度(自賠責制度)は、自動車への自賠責保険(共済)(自賠貴保険等)の加入を義務づけることにより、自動車事故の被害者救済を実現しようとしています。

ところが、無保険車による事故や、ひき逃げ事故(自動車の保有者が誰か不明である事故)あった被害者は、自賠責保険等から支払を受けることができません。

このような被害者を救済するために、政府の保障事業が行われています(自賠法71条以下)。

政府の保障事業には、このような被害者に対する保障(自賠法72条1項前段)と、自賠責保険会社等に対する保障とがあります(自賠法72条2項)。

※自賠法5条

(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)
第五条 自動車は、これについてこの法律で定める自動車損害賠償責任保険(以下「責任保険」という。)又は自動車損害賠償責任共済(以下「責任共済」という。)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならない。

※自賠法72条

(業務)
第七十二条 政府は、自動車の運行によつて生命又は身体を害された者がある場合において、その自動車の保有者が明らかでないため被害者が第三条の規定による損害賠償の請求をすることができないときは、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者が、第三条の規定によつて損害賠償の責に任ずる場合(その責任が第十条に規定する自動車の運行によつて生ずる場合を除く。)も、被害者の請求により、政令で定める金額の限度において、その受けた損害をてん補する。
2 政府は、第十六条第四項又は第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)の規定による請求により、これらの規定による補償を行う。
3 前二項の請求の手続は、国土交通省令で定める。

※自賠法75条

(時効)
第七十五条 第十六条第四項若しくは第十七条第四項(これらの規定を第二十三条の三第一項において準用する場合を含む。)又は第七十二条第一項の規定による請求権は、三年を経過したときは、時効によつて消滅する。

 

※自賠法86条の3

第八十六条の三 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第五条の規定に違反した者
二 第二十三条の九第一項の規定に違反して、その職務に関して知り得た秘密を漏らし、又は自己の利益のために使用した者
三 第八十四条の二第二項又は第三項の規定に違反した者

次に、加害者が任意保険には入っているが、自賠責保険が期限切れになっていた場合は、どうすればいいのでしょうか。

例えば、交通事故で怪我をして、加害者が任意保険には入っているものの、自賠責保険は期限切れになっていた場合です。

この場合、保険請求の順序に注意しましょう。

自賠責保険が期限切れで無保険になっている場合は、自賠法72条が適用になって、政府保障事業に請求することになります。

その場合、自賠責保険と概ね同じ基準で支払ってくれます。

しかし、ここで手続の順序に注意が必要です。

政府保障事業は、どこからも全く何も補償を受けられない被害者のための最後の救済制度です。

従って、たとえ一部でも加害者から治療費や示談金をもらったりした場合は、その分を差し引いた残額を払うことになっています。

例えば、歩行者が2台の車の衝突事故によって被害を受けた場合、1台の車が無保険車であっても、もう1台の車がきちんと自賠責保険に入っていれば、政府保障事業の適用はありません。

そこで、上記の場合、任意保険があるので、任意保険から先にもらってしまうと、その分は政府保障事業から支払われる金額から差し引かれてしまう可能性があります。

このようなケ-スでは、先に政府保障事業に手続をとって、支払ってもらってから、任意保険に請求したほうがいいでしょう。

政府保障事業による保障(損害の填補)の対象及び支払限度額は、自賠責保険(共済)と概ね同じです。

但し、被害者が他の社会保険給付(労災保険給付など)を受けられる場合には、まずその給付を受けることとされており、他の社会保険給付を受けた場合は、その限度で政府からの保障(損害のてん補)は受けられません。

また、被害者が損害賠償義務者から受領した賠償金があるときは、その限度で保障は行われないこととされています。

なお、最新の取扱いについては、政府保障事業の担当窓口に確認して下さい。

この記事を書いた人:弁護士法人アルテ代表 弁護士 中西優一郎

東京大学法学部卒業。東京の外資系法律事務所に勤務し、渉外弁護士として、労働、コーポレート/M&A、ファイナンス等の企業法務に従事。
2012年に兵庫県尼崎市にて開業。2014年に法人化し、弁護士法人アルテの代表に就任。
交通事故の解決実績多数。脳・脊髄損傷等による重度後遺障害案件を多く取り扱っている。交通事故の被害者救済のため、医療機関等との連携を強化。事故直後より、後遺障害等級の認定、適正な賠償金の獲得まで、ワンストップでサポートしている。

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