脊髄損傷の家族が知っておきたい6つのこと

1 脊髄損傷とは?

交通事故の怪我でよく聞く脊髄損傷。一体、どのような怪我なのでしょうか。

脊髄損傷とは、読んで字の通り「脊髄」を損傷する怪我のことをいいます。

脊髄とは、脳から背骨の中を通って伸びている太い神経の束です。

脊髄は脳からの命令を身体の各部分に伝えたり,逆に体の各部分からの感覚の情報を脳に伝えたりする重要な役割があります。

そして,脊髄は,背骨によって守られています。

交通事故などによって背骨に外から大きな力が加わると、背骨によって保護されている脊髄が損傷し、手足が使えなくなる等の重大な障害を負うことがあります。

実際に診断書に記載される傷病名としては、「脊髄損傷」のほか、損傷部位等によって、「頸髄損傷(頚髄損傷)」、「胸髄損傷」、「腰髄損傷」、「仙髄損傷」、「中心性脊髄損傷」などが挙げられます。

(1)脊髄とは

脊髄とは、延髄と呼ばれる脳幹の下方組織の続きとして、頭蓋骨に続く脊柱の中央を上下に貫く脊柱の中に入っている白色の紐状の束となっている器官であり、脳と共に中枢神経を構成しています。

この中枢神経が、体と脳を繋ぐ役割(神経伝達機能)を果たしているため、脊髄が損傷されると脳から体又は体から脳への信号が上手く送れなくなり、麻痺などの症状を発症することになります。

神経は、上方から下方へと流れていますので、上方の脊髄を損傷すると、損傷した箇所以下の神経支配領域に麻痺などの症状を残すことになります。

また、脊髄損傷は直接的な症状だけでなく多くの合併症を発症しやすい傷病でもあります。

脊髄を損傷する原因は、主に脊柱に強い外圧が加えられることが挙げられます。

交通事故は衝突により強い衝撃を伴うことが多いので、脊髄損傷の原因となり易いです。

(2)脊髄損傷の分類

脊髄損傷は、その損傷の程度によって「完全損傷」と「不完全損傷」に分かれます。

・「完全損傷」とは、脊髄が横断的に離断されることにより神経伝達機能が完全に断たれることをいいます。完全損傷の場合には損傷部位以下の機能が完全に麻痺します。

・「不完全損傷」とは、脊髄が横断的に離断されているわけではないけれども損傷しているという状態であり、この場合でも麻痺を含む様々な症状を発症することになります。

(3)症状の部位による分類

脊髄損傷は、症状の現れる部位により「四肢麻痺」「対麻痺」「片麻痺」「単麻痺」に分けられます。

・「四肢麻痺」とは、頚髄を損傷することによって両上肢両下肢及び骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態のことをいいます。

・「対麻痺」とは、胸髄、腰髄、仙髄、馬尾の損傷によって両下肢及び骨盤臓器に麻痺や機能障害を残す状態のことをいいます。

・「片麻痺」とは、脊髄を損傷したことにより、片方の上肢・下肢に麻痺や機能障害を残す状態のことをいいます。

・「単麻痺」とは、脊髄を損傷したことにより、1つの上肢・下肢に麻痺や機能障害を残す状態のことをいいます。

2 脊髄損傷で発生する症状と診断は?

脊髄損傷では、どのような症状が発生するのでしょうか。

一般に損傷した部位が上になる程、障害が重くなるといわれています。

脊髄が損傷されると、その生涯された部位より下へ脳からの指令が伝わらなくなり、また下からの信号が脳へ伝われなくなります。

そのため、運動麻痺、感覚障害、知覚麻痺、自律神経障害、排尿障害、腸管障害、排便障害、自律神経障害、体温機能調節障害などのさまざまな障害が生じます。

(1)高位診断

脊髄損傷による麻痺の範囲は、脊髄損傷の生じた部位(高位)によって異なります。

例えば、頚髄が損傷されると四肢麻痺が生じ、第2腰髄から上が損傷されると、下肢全体が完全に麻痺したり、不完全麻痺になったります。

また、脊髄の最下部(第3仙髄以下)が損傷した場合には下肢の麻痺は生じないものの、肛門周囲の感覚障害や尿路障害が生じます。

このように脊髄は、どの高さの部分で損傷を受けたかによって、発現する運動障害や感覚障害の範囲が定まります。

したがって、MRI、CT等による画像診断だけでなく、臨床所見等を併せて損傷の部位(高位)を診断します。

(2)横断位診断

脊髄損傷は、脊髄の全断面にわたって生じた場合と、いずれか半側又は一部に生じた場合とによって、その症状が異なるので、この点における診断(横断位診断)も重要です。

脊髄の全断面にわたって生じた場合は、障害部位から下方の感覚脱失又は感覚鈍麻が、運動麻痺とほぼ同じ範囲に生じます。

他方、脊髄の左右半側を損傷した場合には、損傷した半側の下肢の運動障害及び感覚障害のほか、他の側の温痛障害等が生じます(ブラウン・セカール症候群)。

頚髄の中心性に損傷した場合には、下肢よりも上肢に重い麻痺が生じます(中心性脊髄症候群)。

脊髄の前部半側を損傷した場合には、損傷部位より下位の両上肢で運動及び痛覚の消失をきたしますが、後部脊髄の機能である振動覚等には影響が及びません(前脊髄症候群)。

3 脊髄損傷の診断方法は?

交通事故によって脊髄損傷が疑われる場合、加害者側に損害賠償請求の可能性がありますので、後遺障害認定を受ける必要が生じます。

後遺障害認定では、自覚症状や画像所見、神経学的所見などが必要となります。

医師に適正な後遺障害診断書を作成してもらうためには、適正な検査を受ける必要があります。

脊髄損傷の診断には、神経学的診断や画像診断、電気生理学的検査などが利用されます。

(1)神経学的検査

神経学的検査は、上肢・体幹・下肢の知覚障害、筋力麻痺の範囲、腱反射の異常などから脊髄損傷の起きている範囲と程度を調べる検査です。

具体的には、四肢の動きや感覚障害の有無・レベルの検査、深部腱反射、膀胱や肛門括約筋機能などの検査を行い、脊髄や神経根の損傷による麻痺の有無・程度を確認します。

(2)画像診断

骨の障害や脱臼がある場合、まずXP検査(レントゲン)によって傷害部位を診断します。

そして、必要に応じてCT検査やMRI等の検査が行われます。

(3)電気生理学的検査

脊髄損傷の診断法として、脳・脊髄誘発電位、筋電図といった電気生理学的検査が行われることがあります。

神経刺激による異常を観測し、脊髄の病巣の有無・部位などを確認します。

胸痛を訴える場合には心電図、また脳の損傷と識別するために脳波等の検査が行われることがあります。

筋電図は神経や筋肉の障害を電磁的に検査することが可能です。

4 脊髄損傷の治療とリハビリ

(1)脊髄損傷の治療

脊髄自体に対する治療は未だ研究途上で、根本的な治療法は確立していません。

脊髄は、骨や皮膚とは異なり再生能力の乏しい組織ですので、完全に損傷された場合、再び修復されることは現時点では難しいと言えます。

急性期の治療は、損傷した脊椎を修復し、安定させることを目的としており、早期にリハビリテーションが受けられるようにすることが主体となります。現在行われている脊髄損傷の治療法は、大きく分けて、手術による治療と保存的治療があります。

ア 手術による治療

脊髄損傷に対する手術治療は、大きく分けて神経除圧術と脊髄固定術があります。

神経除圧術とは、外傷によって圧迫された脊髄への圧力を取り除く手術です。通常、神経除圧術を行うと、痛みや麻痺などを緩和することができます。

除圧だけでは症状が再発する可能性がある場合や、脱臼して脊椎が不安定な場合、脊髄固定術が施行されます。本人の骨盤などから骨をとって脊髄に骨を移植し、金属を使って脊椎を固定します。

これらの治療は脊髄の更なる損傷を防止し、症状を軽減させることを目的としており、神経そのものを直接回復させることはできません。また、麻痺などの回復の程度は、受傷時に脊髄が受けた損傷の程度に大きく影響されます。

イ 保存的治療

保存的治療とは、手術以外のすべての治療法のことを指します。保存的治療としては、原因や損傷の程度によっても異なりますが、まずは比較的効果の高い薬物療法が施行されることが多いようです。

薬物療法によって改善が不十分な場合には、注射療法や理学療法を組み合わせます。運動療法は症状の回復期、合併症や併発症の予防として行われます。具体的には、頸部を安定させるための筋力強化、軟部組織の拘縮を和らげるストレッチなどです。保存的治療でも症状が改善されない場合は手術が必要になります。

(2)脊髄損傷のリハビリ

脊髄損傷のリハビリテーションは、失われた機能を回復させることではありません。

現在の医学では神経が再生しない以上、現在の医学では回復させることはできないからです。

頸髄損傷のリハビリテーションでは、残された機能を最大限に生かし、可能な限り日常生活動作を自立させていくということが目的となります。

5 脊髄損傷の介護のポイント

(1) 排便管理

排便をコントロールするために、決まった時間に便座に腰掛けること、規則正しい食事、適度の運動、腹部マッサージ、十分な水分摂取、繊維成分の多い食物の摂取などが大切だと言われています。

排便管理としては、緩下剤(便を柔らかくする)と座薬(大腸を刺激する)を使用したり、さらに摘便を併用したりすることがあるようです。

また、排便管理と共に重要なのが、肛門周囲を清潔に保つことです。

肛門が汚れたままの状態ですと、うっ血が起こったり、かゆみや痛みの原因になったりします。

(2) 排尿管理

脊髄損傷者のほとんどは、損傷の程度に関係なく何らかの排尿機構について問題を抱えているといわれています。

麻痺した膀胱にある程度の緊張を周期的に与えることは機能回復上重要であると考えられ、排尿練習は早期にはじめるのが望ましいといわれています。

排尿の管理で重要なことは、残尿を残さないということです。

残尿とは、尿を出しきれず、常に一定の量の尿が膀胱内に溜まってしまう状態のことを言います。

残尿があると膀胱感染を起こし、さらには腎臓への感染が起こり、腎不全を起こす可能性があります。

排尿方法は、損傷程度によって異なりますが、用手排尿(介助者の手によって腹圧を高め排尿を促す方法)あるいは自己導尿(自分で尿道からカテーテルを入れて膀胱に溜まった尿を出す方法)などがあります。

できるだけカテーテルは使わない方が尿道や前立腺の合併症を防止できるともいわれています。

腎臓や膀胱結石等の尿路合併症を予防することが大切といわれています。

(3) 呼吸器の管理

呼吸のための筋肉が麻痺している場合、吸収する力が弱かったり、咳や痰を出すことが難しくなったります。

また、肺そのものの機能も悪くなるため痰が多くなり、痰がとどまると感染や肺炎を起こしやすくなるため、呼吸器の管理は特に大切になります。

(4) 褥瘡(じょくそう)予防

褥瘡とは、骨の突出した部位など局所が持続的に圧迫されて血行が阻害されることによって、皮膚と皮下組織に虚血性変化や壊死が起こり、皮膚潰痬などが生じる状態をいいます。床ずれ(とこずれ)とも呼ばれています。

脊髄損傷患者の多くは、自身で身体を動かすことが困難なので、褥瘡が起こりやすい状態にあります。

定期的に十分な体位変換を行う必要があります。

局所の持続的圧迫以外の褥瘡発生の原因として、栄養状態の悪化、血圧の低下などがあります。

したがって、褥瘡予防のためには、皮膚面の保湿と保清、栄養管理も重要であると考えられています。

(5) 循環器の管理

頸髄損傷の場合は、自律神経障害や筋肉の弛緩により血圧や血流にも影響があります。

ずっとねたきりだと循環血液量がどんどん低下していきますので、可動域訓練などのリハビリに積極的に励むなど日頃から運動するようにしましょう。

運動によって循環血液量は増えていきます。

血栓の防止のためにも、運動により血流を確保することが大切です。

6 脊髄損傷と後遺障害等級

脊髄損傷による後遺障害は、原則として身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度により障害等級を認定することとなります。

脊髄損傷の場合は、広範囲にわたる感覚障害や尿路障害などの腹部臓器の障害が認められたり、せき柱の変形や運動障害が認められたりすることも多いです。

これらの障害が麻痺により判断される障害の等級よりも重い場合は、それらの障害の総合評価により等級が認定されることになります。

交通事故による脊髄損傷について、自賠責は、その症状の程度に応じて1級から12級までの後遺障害等級を定めています。

具体的には、別表第1の1級1号、2級1号、別表第2の3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号の7つの等級の認定可能性があります(4級や6級などの他の等級には、脊髄損傷症状に該当するような要件が定められていません。)。

自賠責の後遺障害等級は、労災が定める後遺障害等級や認定基準を流用しているのですが、脊髄損傷について該当する等級は「神経系統の機能又は精神の障害」という項目で括られています。

当該項目について認められる等級が上記の等級ですが、その症状の程度を表す表現として、労災も自賠責も次のような表現で区別しています。

・第1級 生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの

・第2級 生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの

・第3級 生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの

・第5級 極めて軽易な労務にしか服することができないもの

・第7級 軽易な労務にしか服することができないもの

・第9級 通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの

・第12級 通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの

この記事を書いた人:弁護士法人アルテ代表 弁護士 中西優一郎

東京大学法学部卒業。東京の外資系法律事務所に勤務し、渉外弁護士として、労働、コーポレート/M&A、ファイナンス等の企業法務に従事。
2012年に兵庫県尼崎市にて開業。2014年に法人化し、弁護士法人アルテの代表に就任。
交通事故の解決実績多数。脳・脊髄損傷等による重度後遺障害案件を多く取り扱っている。交通事故の被害者救済のため、医療機関等との連携を強化。事故直後より、後遺障害等級の認定、適正な賠償金の獲得まで、ワンストップでサポートしている。

後遺障害の等級認定を事故直後から徹底サポート
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